『放送大学共通科目 外国語科目 初歩のアラビア語('06) 〜アラブ・イスラーム文化への招待〜』(放送大学学園)
第13回「私はアラブの小説を読むのが好きです 〜詩と小説〜」
「「今回のアラビア語学習では、いよいよ、動詞を導入します。また、“疲れています”,“病気です”という表現を学びます」」…そう言えば意外な気もしますが、放送大学版では未だに動詞に付いて触れていなかったんですねぇ。でもちょっと待って下さいよ。今回も含めてあと3回なのに、動詞なんて一通り触れる事なんて出来るんですか!?
「「それでは今日の基本フレーズです。まず最初はこの文です。ماذا تدرسين في الجامعة اللبنانية؟ ـ、最初の単語はماذاと読み、“何を”という意味の疑問詞です。次はتدرسينで、今回習う動詞未完了形で、“勉強する”,“勉強している”という意味です。これは2人称女性単数、女性の“貴女”の活用です。活用に付いても後程、学習します。中央がفي、これは前置詞で“何々に”,“何々で”という意味です。次がالجامعة、“大学”ですね。そして最後はاللبنانيةで、これはنسبة語尾ですから、“レバノンの”という形容詞になり、直前のالجامعة、“大学”を修飾しています。修飾する名詞が定冠詞付きで女性形ですから、それを修飾する形容詞も定冠詞付き女性形ですね。文全体で“貴女はレバノン大学で何を勉強していますか?”という意味になります」」…成程、先に散々نسبة語尾に付いて触れて来たのは、動詞を説明する時に、一気に長文(という程でも無いのだけど…)を作る処までやれるからなのですね。一見すると敷居が高そうにも感じますが、もしかしたらこの方がスムーズに覚えられるかもしれません。ただ、ちょっと気になったのは、いきなり女性形を持ってきた事ですね…。
「「では、次の基本フレーズです。أدرس العلوم السياسية. ـ、この文章は、最初の基本フレーズの返答になります。最初の単語はأدرسと読み、同じく“勉強する”という意味ですが、これは最初にاを台としたءのأが付いていますから、1人称単数、“私は勉強する”,“〜勉強してる”という意味です。そして中央はالعلومで“学問”,“科学”の複数形です。最後は、それを修飾する形容詞السياسيةで“政治の”という意味で、このالعلوم السياسيةの両方で“政治学”となります。العلومが人間以外を示す複数形なので、それを修飾する形容詞は女性単数形になっています。この事は、前回の複数の処で学習しましたね。そして、これはأدرس、“私は勉強する”の目的語になっています。文全体で“私は政治学を勉強しています”という意味です」」…ここでもنسبة語尾を含む文になっています。動詞を勉強する時点で、こういう実用的な文を理解出来るようなカリキュラムを構成したというのは、評価できます。ところでسياسيةは響きに特徴のある語です。加藤もالجزيرةのストリーミング放送を聴いていて耳に残り━━もともとニュースには頻繁に出て来る単語の一つ━━気になって調べた記憶があります。こうして自分で調べた語は意外と忘れないものですが、辞書を引く事に面白さを感じないと出来ません。言訳をするつもりはありませんけど、英語嫌い━━というか国語の漢字も嫌い━━という、要するに勉強嫌いな私は、押付教育の弊害部分を多く受けてしまったと感じています。宿題で、辞書で調べて来い、というのは押付であって、そこに面倒臭さを感じてしまうと、面白さ、興味関心は著しく低下します。先生になったりする人の多くは、余程、押付教育がハマっていた方なんでしょかね、自ら疑問に感じていたのであれば、もっと、興味を持たせるような授業を出来無いものなのか、と、思います。
「「では、今日のポイントです。動詞未完了形です。アラビア語の動詞は、動詞の動作,状態が完了した事を表す完了形と、それが完了していない事を表す未完了形とに分けられます。今回は動詞未完了形を学びます。未完了の動詞は大まかに言って、現在の行為を表現していますが、現在進行中の行為,動作、そして、習慣的な行為,動作も表す事が出来ます。ご覧下さい。أذهب إلى المكتبة. ـ、これは最初の単語がأذهبが、“私は行く”という動詞です。次がإلىという前置詞で“何々へ”という意味です。最後の単語はالمكتبةで“図書館”です。これはご覧のように“私は図書館へ行く処です”という意味で、“現在行く途中である”という進行中の状態を表す事も出来る他、“私は図書館へ行きます”というように、たとえば“毎日行っている”等の習慣を表す事も出来ます」」…この辺りが判ってくると、比較的、言いたい事は言えるようになってきそうです。
「「では次に活用に入って行きます。今、見たような例文には“私は何々”という主語が示されていました。これはアラビア語の動詞が主語の人称,性(せい),数(すう)に応じて変化、つまり活用するからです。未完了形の活用の仕方をيكتبという動詞で見てみましょう。يكتب。この動詞の場合、كتبの部分は変化せず、これを語幹と言います。この語幹を構成している3つの子音كとتとبに表されるكتبは、これは下の段にありますが語根と呼ばれます。そして、語幹の母音、uは特徴母音と呼ばれます。また、語幹に接頭辞と接尾辞、つまり、最初のيَـと語末母音のuを付ける事によって人称を表します。尚、特徴母音は、このيكتبはuですが、動詞によって、a,i,uの何れかになります。a,iになる動詞の例も見てみましょう。左の動詞はيعملと読んで“彼は働く”という意味です。これの語幹はعملで特徴母音はaになっています。右の動詞はيعرفと読み、“彼は知っている”という意味です。これの語幹はعرفで、特徴母音はiになっています。このように特徴母音がيكتبだとu、يعملだとa、عرفだとiになるように、動詞によって異なりますから、各動詞を覚える時に、一緒に覚えていきましょう」」…でも、やっているうちに、フィーリングで何と無く判ってくるものです。
「「次に、動詞の主語についてご説明します。2点あります。まず1点目です。動詞は、主語の人称,性(せい),数(すう)によって活用するので、1〜2人称の場合は、特に強調する場合を除いて、人称代名詞を主語として置く必要はありません。例えば、次をご覧下さい。أعمل في الشركة. ـ、最初の単語が動詞でأعملと読み“私は働く”という意味です。中央はفيで前置詞“何々で”,“何々の中に”です。最後はالشركةで、“その会社”という意味です。続けて読むとفي الشركةですね。この文では動詞の主語、“私”、1人称単数は動詞の活用から明らかです。ですからこのأنا أعمل في الشركة. ـ
ようにأنا أعملというように、أنا、“私”という単語を、أعملという、既に“私は働く”という“私”が含まれた動詞にわざわざ付ける事は、“私”を強調したい時を除いて、普通は用いません。次に2点目です。主語が名詞の場合は、通常、動詞の後に置かれます。例をご覧ください。تعرف البنت المدرسة. ـ、最初の単語はتعرفと読み、“知る”という動詞の3人称女性単数の形です。中央がالبنتで“その娘”ですが、これが最初の動詞تعرفの主語になっています。最後はالمدرسةで“その先生”、“女性の先生”で、動詞の目的語になっています。もし、このالبنتが無ければ、この場合تعرفは単に“彼女は知っている”となりますが、このように、名詞が動詞の主語になる場合は、名詞が主語になって、その主語に合わせて動詞の活用を選びます。そして、主語の位置ですが、アラビア語では動詞を含む文では、この文のように、まず動詞、次に主語、という語順が標準的です。また、目的語がある場合は普通は主語の後に置かれます」」…放送大学版では文法的な部分で正規のものを紹介しています。NHK版の講座では主語あり、主語・動詞・目的語の語順による文法を示していますが、実際にはどちらが一般的なのでしょうかね。
「「けれども、البنت تعرف المدرسة. ـ、この文のように、主語を動詞の前に置く場合もあります。ご覧下さい。上の文と下の文は、殆ど同じ意味で用いられますが、上の方が標準的です。けれども下でも構いません」」…الجزيرةの見出しなんかですと、どちらも見掛ける気がします。
「「それでは、ここで動詞未完了形の否定と疑問詞に付いて学習します。未完了形の否定はلاを動詞の前に置く事によって表します。لا تكتبين الرسالة. ـ、最初の単語はلاで“いいえ”という意味で、既に習いましたね? これは、動詞未完了形の否定にも使われ、このように動詞の前に置きます。中央はتكتبينで、“書く”の2人称女性単数、この場合、“女性のあなたは書く”という意味です。最後はالرسالةで、“その手紙”ですね。“書く”の目的語になっています。最初のلاが無ければ“貴女はその手紙を書きます”ですが、動詞の前にلاを置く事で“貴女はその手紙を書きません”と否定文にする事が出来ます。次は、動詞を伴う文で用いる疑問詞です。هلとماذاを学びます。“何々ですか?”と疑問文にする時は、هل تعرفون الرجل؟ ـ、最初の単語はهلです。これまでにも幾度か出てきました。هل أنت طالب؟ ـで“あなたは学生ですか?”という意味でしたね? هلは“はい”,“いいえ”で答えられる疑問文に使う事が出来ます。中央はتعرفونで、“知っています”の2人称複数の活用形で、“あなた達は知っていますか?”という意味です。最後はرجل、“男”に定冠詞が付いたものです。このようにهلを文頭に置く事によって疑問文に出来ます。“何をしますか?”、“〜していますか?”と訊きたい時には、ماذاを文頭に置きます。ماذا يدرس أحمد؟ ـ、最初はماذاで、“何”という、動詞を伴う文に使う疑問詞です。基本フレーズでも出てきましたね。その次はيدرس、“勉強する”の3人称男性単数形です。その後にأحمدという男性の名前があります。أحمدはيدرسの主語になっています。これで“أحمدは何を勉強していますか?”という意味です。これに対する返答も見ておきましょう。يدرس العلوم السياسية. ـ、最初はيدرسで“彼は勉強する”です。そして次の2つがالعلوم السياسيةで“政治学”ですね。基本フレーズで出て来ました」」…ペース早ッ! なんか、一気に加速した感が強いですよ!?
「「それでは“疲れています”,“病気です”の表現です。皆さんも、いつもお元気だったらいいのですが、時には疲れたり、病気になったりすると思います。そんな時には次のように言います。まず、“私は疲れています”の表現です。話し手が男性の場合です。أنا متعب. ـ、最初はأناです。次がمتعبと読みます。“疲れている”という意味です。では、次は話し手が女性の場合です。これはأنا متعبة. ـとتاء مربوطةが付いていますね」」…NHKの講座でもやっていた、「私は何々する人です,何々している人です」という表現ですね。日本語では副詞になったり、現在進行形の動詞になったりするような表現は、人名詞活用にするという話。従って、人名詞活用が判らないと、こういう事が言えないという訳でして。
「「次は“私は病気です”の表現です。まず話し手が男性の場合です。أنا مريض. ـ、最初は同じくأناです。次がمريضと読み、“病気である”という意味です。話し手が女性になると次のようになります。أنا مريضة. ـと、最後にتاء مربوطةが付きます」」…こちらも同じ。
「「それでは今日のثقافةです。アラブの詩と小説に付いてお話します。まず、小説に付いてからです。アラブの小説は、19世紀に近代ヨーロッパとの接触によって生れた比較的新しい文学ジャンルです。諸説は、既にアラブに存在した物語、例えば皆さんがご存知の『アラビアン・ナイト』のような物や、伝承,伝説とは区別されます。アラビア語で長編小説はرواية、短編小説はقصة قصيرةと言います。小説は、アラブの地で独自の展開を続け、現在ではアラブ世界で最もポピュラーな文学表現様式になっています。1988年にエジプトのنجيب محفوظがアラブ人として、初のノーベル文学賞の栄冠に輝いた事は、アラブの地で小説が成熟期に達した事を意味すると思います。現代のアラブ小説はアラブ独自の文学的伝統,歴史,社会状況,価値観を反映する、重要且つ豊潤な芸術表現の一形態となっています。それではエジプトの男性作家と女性作家にインタヴューをしました。お2人ともアラブ世界では著名な小説家です。ご覧下さい。お1人目はجمال الغطانيさんです。ノーベル賞作家のنجيب محفوظさんとキスの挨拶を交している写真もありました。جمالさんのオフィスの壁には沢山の写真が張られていました。جمالさんは『أخبار الأدب』、“文学の情報”という意味の週刊新聞の編集長もなさっておられます」━━「Q.小説を通して 伝えたいことは何ですか?」「私は忘却や虚無と 闘いながら書いています/人生にあるものは すべて 無になるものと信じています/時間は早く過ぎ去り 書くということは/虚無に対抗することです 書くことは即ち芸術です/私は時間をとどめておく ために書きます/人間の一生は 短いものですから/人生をより良いもの 耐えやすいものにしたい/不公正について 弾圧について書き/人生をより良くする ために書きます/それが60代に近づいている 私の言えることです」「Q.今 何を執筆中ですか?」「小説を書いています/数年前から 新しい作業に取りかかり/先週 この本を出しました/題名は 『ニサール・アルマフー』です/記憶に残ったものについての 書物です/毎週1回 新聞の朝刊にも 記事を書いています/『アフバール・アルアダブ』 という新聞で 私が編集長です/新聞には 日本の作品の アラビア語訳も掲載します/例えば 川端康成のような 作家の作品や俳句などです/この新聞です」━━「これがجمال氏が話しておられた著作です。『نثار المحو』、日本語で言うと『消えゆく破片』とでも訳せるでしょうか。サインと共に、私に下さいました。نوال السعداويさんという女性作家にもお話を伺いました。彼女はアラブ世界で多くの論争を引き起こしてきたフェミニスト作家です。彼女は性,政治,宗教等ののタブーを積極的に語り続けて来た作家です。それではインタヴューをご覧下さい」━━「お会いいただき ありがとうございます。」「こちらこそ。」「Q.何冊、本を 出版されましたか?」「アラビア語で41冊を出版しました。」「Q.何冊が日本語に 約されていますか?」「14冊が日本語に約されています。」「Q.小説を通して伝えたい メッセージはなんですか?」「人生のあらゆるもの。/私は、もともと医者でした。 精神分析医です。/男性と女性の気持ち、人生の困難。/希望と悩みと夢と抑圧。 女性と男性が受けている抑圧。/特に貧しい人々。」「Q.あなたの小説は エジプト社会とアラブ世界に どういう影響を与えましたか?」「大きな影響力があります。/私の小説を読んで感動したという 数多くの読者から手紙が届きました。」「Q.小説を読む 読者の年齢は?」「ほとんどが若者です。男性も女性も。」━━「彼女はエジプトでは、どちらかと言えば否定的なイメージの強い、有名なフェミニスト作家なので、私はインタヴュー前は非常に緊張していたのですが、実際にお目に掛かってみると、とても気さくな方で驚きました。彼女の作品は10冊以上も邦訳されているんですね。アラブ人作家の中でも突出した数ですね。これは彼女の作品の1つで、小説『الرواية』という作品です。日本では彼女の名前はナワル=エル・サーダウィと表記されている事が多いです」」…小説はالفصحىで綴られる故か、彼らの言葉は非常に硬い響きに聴こえました。
「「それでは次は同じ文学でも、時代的にはもっと古くからあるアラブ詩についてです。アラブ古典詩は何世紀にも渡って、最も主要な文学ジャンルでした。その伝統はイスラーム誕生前のジャーヒリーヤ時代である西暦5世紀後半まで遡る事が出来ます。そしてイスラームが興った後も豊かな発展を遂げました。19世紀に入って、ヨーロッパに於ける自由詩や散文詩の強い影響を受けるに到って、アラブ文学に於ける古典詩の影響力は弱まってきました。しかし、古典詩の精神は綿々と受継がれ、現代に於いてもアラブの人々の心に深く生き続けています。最も卓越したジャーヒリーヤ詩人と言われるامرؤ القيسによる詩、『معلقة』の冒頭部分を、先程のجمال الغطاني氏に詠んで戴きましたのでお聴き下さい。彼のような文学者に朗唱してもらう機会はなかなかないかと思います。アラブ古典詩は口承詩(こうしょうし)、口から口へ伝えられていた詩でしたから朗唱されるものなんですね。詩を詠む時は語末母音まで全て発音します。詩の朗唱の前にアラブ詩とはجمال氏にとって一体何を意味するのかもインタヴューをしてみました」━━「私にとってアラブ詩とは 一番大切なものです/毎日 執筆の前に 必ず詩を読みます/毎週 特定の詩人を決めて その作品だけを読みます/アブー・ヌワースとかアブ・ル・ アラー・アルマアッリーとか/アラブ詩から 文学が生れました/アラブにとって 最初の芸術です/アラブ詩は アラブ民族の記録でした/アラブ詩は ただ作品としてだけでなく/出来事や国名や地名について 語っています/今は小説がアラブ民族の 記録となっています/私はとても アラブ詩が好きです/アラブ詩は人間の真理と 存在の深みに触れています/例えば人生 時間 死 永遠との関係などです/イスラーム以前の 古い時代からです」」…古典詩も勿論良いのですが、個人的には現代詩に付いて取り上げて貰いたい気がします。
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